司法書士の佐藤幹彦です。
今回は、登記制度についてざっくり書いてみます。
結論から言うと、登記制度とは「権利の公示により取引の安全確保を図るための制度」ということになります。
司法書士と登記制度
司法書士法において、司法書士は「この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家」(第1条)とされています。
また、「他人の依頼を受けて登記手続を代理すること」や登記手続代理に関する相談に応ずることが司法書士の業務とされており(第3条)、さらに、司法書士又は司法書士法人以外の者がこれらの事務を行うことは、有償無償を問わず原則として禁止されており(第73条)、これに違反すると一年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(第78条第1項)。
このように、登記手続代理(相談に応じることも含む。)は、司法書士の無償独占業務とされています。
現代においては、司法書士と登記制度とは一体不可分の関係にあるというのも決して過言ではありません。
なお、登記制度の歴史は古く、明治19年(1886年)には「登記法」(明治19年法律第1号)が日本の「法律」第1号として公布されています。
【登記制度とは?】
登記制度の目的を一言で表すと「権利の公示による取引の安全確保」ということになります。
といっても少々難しいので、具体例として、不動産を例にして考えてみましょう。
たとえば。
甲土地の所有者と名乗る人(見ず知らずの人)が、かねてから甲土地をほしいと考えていたあなたに対し
「通常2000万円する甲土地をあなたに特別に1400万円で売りたい。」
などという話を持ちかけてきた場面を想定して、登記制度がなかったらさてどうなるか?を考えてみます。
その話に応じて甲土地を買いたいと思った場合に、いくつか考えなければならない点があります。
たとえば…
- 取引相手(甲土地の所有者と名乗る人)は、本当に甲土地の所有者なのか?本当にこの人の言うとおりにお金を払えば自分のものになるのか?お金を払っても大丈夫な相手なのか?
- 甲土地が何かの担保になっていて、買った後で取り返されるおそれはないか?
もし登記制度がないとしたら、これらの不安を解消するためには、買い手の側でさまざまな調査が必要となります(売手は騙す気満々かもしれないので、どうしても買い手の方で調査する必要が生じます。)。
取引の相手方が真実の所有者かどうかの確認を取るだけでも、独自にきちんとした裏付けを取ろうとすればかなりの手間と費用を要します。
そうなると、買い手が購入のために膨大な調査費用を要することとなり、かつ、調査した上でもなお騙されるリスクもあるという状態となるため、安心して甲土地を買うことなどとてもできないことになります。
また、場合によっては、あなたが甲土地を買った後で「元々甲土地はおれが借金のカタに取っていたのだからおれのものだ」として立退きを求められるかもしれません。そうなると、裁判で争う必要が出てくる可能性もあります。
こんなあれこれを考える必要があるとなると、あなたはとても安心して甲土地(甲土地に限らず不動産を)を買うことなどできなくなってしまいます。
「取引の安全」が図られない「危険な取引」であるからです。
不動産登記制度においては、甲土地の所有者の住所氏名や、甲土地に設定された権利の情報が、申請等により登記簿に記録されることになります。
登記制度を前提とすれば、「危険な取引」の不安解消のための手段としては、登記簿を確認すればほぼ済みます(追加調査が必要な場面はありますが、それでも)。取引相手が真実の所有者かどうかを確認することもかなり容易となり、費用が大幅に節約できます。
また、あなたが甲土地を買った旨の登記がされると、あなたが土地の所有者であることが公示されます。
たとえ公示以前に二重売買により他の人が甲土地を買っていたとしても、登記を得ていない以上、先に登記をした人に権利を対抗することができなくなります(民法177条)。
少し冗長な説明となりましたが、これが「公示による取引の安全」です。
取引に関する調査コストを下げ、知らない間に勝手に権利を奪われる危険をなくすことで、安心して確実に取引を行えるようにする。そのために登記制度が存在する。
ざっくりまとめると、こういうことになるでしょうか。
【不動産以外の登記制度】
現在の我が国の登記制度には、次のようなものがあります。
・不動産登記
・商業登記
・法人登記
・外国法人の登記
・船舶登記
・成年後見登記
・動産登記(特別法で登記がされることが定められている動産)
・動産譲渡登記
・債権譲渡登記
・質権設定登記
・各取材団登記
・企業担保権登記
・夫婦財産契約登記
・立木に関する登記
不動産以外の登記制度についても、基本的には「公示による取引の安全確保」がその目的であるといえます。
たとえば、商業登記(会社の登記)を例に取れば…
会社社長を名乗る人を相手に取引をする場合に、相手の会社が実在するのか・本店はどこか・交渉相手が本当に代表権限のある人なのか?等の点を会社登記簿により確認することができ、これにより安心して取引関係に入ることができるのです。