司法書士の佐藤幹彦です。
今回は、いわゆる「終活」の中でも重要な位置付けになる「遺言」についてです。

遺言とは

人が亡くなった後に自ら意思表示をすることは、通常できません(当然ですね)。
遺された人たちが後になって「故人は生前にこうしたいと言ってたよ!」などと言い出したところで、何の証拠もないのであれば、「遺された人たちの意思」と外見上の区別が付きません。
仮にそれが故人の遺志と合致していればまだよいのですが、勝手に遺志を決められては故人も浮かばれないでしょうし、遺族間で見解が食い違えば「相続」ならぬ「争続」という修羅場に足を踏み入れることにもなりかねません。

そこで、自らの死により発効する意思表示を生前にしておき、死後にその意思の実現を図るための制度「遺言」です。
なお、一般的には「ゆいごん」と読まれることも多いですが、法律用語としては「いごん」と読むようです。


法律上有効な遺言には、次の3点が必要です。

法律上有効なものとして遺言をするには…

遺言能力を有する人が行うこと。
一定の遺言事項についての意思表示であること。
③法定された遺言の方式により行うこと。

遺言が法律上有効なものである限り、遺言の内容(生前の意思)の実現を図るための法律上の保護が受けられることになります。法律上有効でない遺言を残しても法律上は何の効力も生まないので、どうせなら法律上の効果を慎重に検討した上で作成する遺言の内容を決定すべきでしょう。

また、遺言は、生前の最終の意思表示の実現を図るものであり、遺言者の死亡までは何の効力もないため、遺言者は作成した遺言をいつでも撤回できます(撤回の方法は、遺言の方式に従う必要があります。)。
同一人が複数の遺言書を作成し相互に矛盾抵触する部分があるときは、その抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。

「遺書」と「遺言」との違い

いわゆる「遺書」は、基本的には法律上の効果を期待するものではないと思われますが、例えば書き置きメモ程度のものであっても、遺言としての法律上の要件を満たしていれば「遺言」として認められる可能性はあります。

なお、知り得た事実を伝えるような内容等、法律行為の意思表示ではない内容のものは、(法律上の)遺言とはなり得ません。

繰り返しますが、作成者が「遺言のつもり」で作成しても、法律上の効果を生まないもの、法定の形式に従わないものは、特段の法律上の効果を生じないことになります。

遺言能力

遺言能力とは、遺言の意味内容を理解することができる意思能力をいいます。

遺言者が遺言時に遺言能力を有していなかった場合は、遺言自体が無効とされるおそれがあります。
(遺言能力の有無について争いとなった裁判例が多数あります。)
民法上は、未成年者でも年齢満15歳以上であれば遺言能力を有するとされ、また、成年被後見人であっても意思能力を回復していれば(条件付ですが)自ら遺言をすることができるとされています。

なお、認知症の診断を受けたからといって必ずしも遺言能力がないと判定されるものではありませんが、遺言書の作成を検討される際は、できるだけ遺言能力に疑義を持たれる状態とならないうちに作成をしておくことをオススメします。

遺言の方式

民法に定められた遺言の方式には普通方式による遺言と特別方式による遺言とがあり、普通方式による遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
(特別方式については割愛します)

自筆証書遺言遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印する。
公正証書遺言証人2人以上が立ち会い、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人が筆記して遺言者・証人に読み聞かせ又は閲覧させ、遺言者及び証人が承認して署名押印し、公証人が署名押印する。
秘密証書遺言遺言者が遺言書を作成して署名押印の上、封印し、封書を公証人・証人2人以上の前に提出し、自己の遺言書の旨及び氏名住所を述べ、公証人が日付及び遺言者の口述を封書に記載し、遺言者/証人とともに署名押印する。
普通方式による遺言の方式

公正証書以外の遺言(自筆証書遺言・秘密証書遺言)は、相続開始後(遺言者の死亡後)に、家庭裁判所において検認手続を経る必要があります。

しかし、遺言者の申請により自筆証書遺言を法務局で保管することができ、この法務局に保管された自筆証書遺言については、検認手続を要しません。
(参考:自筆証書遺言書保管制度(法務省)→https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

遺言できる事項

遺言をすれば法的な効力が発生する事項は、民法その他の法律で定められた事項に限られます。たとえば、次のような事項について遺言の効力が認められています。

  • 認知
  • 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
  • 推定相続人廃除又は廃除の取消し
  • 相続分の指定又は指定の委託
  • 遺産分割方法の指定又は指定の委託
  • 遺産分割の禁止
  • 遺贈
  • 遺贈の効力に関する定め
  • 配偶者居住権の遺贈
  • 遺言執行者の指定又は指定の委託
  • 遺言執行者に関する定め
  • 特別受益の持戻しの免除
  • 祭祀主宰者の指定

遺言の作成に専門家の力を

自筆証書遺言は本人がひとりで作成することもできますが、遺言内容が法律的に実現可能な記載であるかどうかまで全て自分で正確に判断するのは容易ではなく、仮に実現不可能な遺言を残してしまうとかえって遺族の負担が増えることにもなりかねません。

遺言作成を検討されている方は、一度司法書士に御相談ください。

当事務所では、遺言書の作成についても、個々の状況に応じた安心確実な方法を一緒に検討していきます。