司法書士の佐藤幹彦です。
今回は「期間の計算」についてまとめてみます。
わたしたちが日常何気なく行っている期間に関する計算(「〇日後までに」「〇か月以内に」といったもの)は、民法にその基本的なルールが規定されていおり、特別な定めがない限り、このルールが適用されることになります。
(ちなみに、特別な定めの代表例が、年齢計算です。)
まずは条文を確認
まずは、民法の期間計算に関する条文を見てみましょう。
第六章 期間の計算
(期間の計算の通則)
第百三十八条 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。(期間の起算)
第百三十九条 時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
(期間の満了)
第百四十一条 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。第百四十二条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。
(暦による期間の計算)
第百四十三条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
この、たった6条の条文ですが、なかなか奥深いものがあります。
期間・期限が厳格に定められている場合には、ときとして読み違いが命取りになることもあります。
基本ルール1 起算点 (第139条・140条)
まず、期間の開始を「いつから」と捉えるかについて。
期間を「時間」単位で定める場合と、「日、週、月又は年」単位で定める場合とで、取扱いが異なります。
期間を時間単位で定めた場合
この場合には、「即時から起算する」とされています(民法第139条)。
たとえば、「今から2時間後に集合!」という場合には、起算点は「即時」=今です。
これは何の問題もありませんね。
期間を日、週、月又は年単位で定めた場合
この場合には、「期間の初日は、算入しない」とされています(民法第140条)。
いわゆる「初日不算入の原則」です。
たとえば、ある日の午後2時に「今日から3日後まで」という期限を定めた場合には、その起算点は「翌日から」となります。「1日後まで」というのは「翌日まで」となります。
なお、「翌日から」を「翌日の午前0時から」と理解しておくと、いろいろ便利です。
そして、期間が初日の0時から開始する場合には、初日を算入するとされています(民法第140条ただし書)。
基本ルール2 満了点 (第141条・142条)
期間の満了を「いつまで」と捉えるかについて。
期間を時間単位で定めた場合
たとえば先ほどの「今から2時間後に集合!」といったケースでは、「今」を起算点として「2時間後」がくればその時点で期間が満了します。
これはあまりにも当然すぎるためか、民法上には何の規定もおかれていません(規定する必要もないということでしょう。)。
問題は、これ以外の場合です。
期間を日、週、月又は年単位で定めた場合
この場合は、「その末日の終了をもって満了」と定められています(民法第141条)。
日の終了は、その日の24時の経過(=翌日の午前0時の到来)です。一部では深夜1時を「25時」とする場面もありますが、通常はその日の24時を迎えると同時に日付が変わって午前0時となりますね。
したがって、さきほどの「ある日の午後2時に「今日から3日後まで」という期限を定めた」という例では、たとえば「ある日」が9月15日だった場合には、起算点は初日不算入により「9月16日の午前0時」、満了する日は「9月18日」、満了点は「9月18日の24時(=19日の午前0時になった瞬間)」ということになります。
起算点の考え方とあわせて考えると、民法は「0時から24時までの24時間」を1日の単位として捉えており、期間の計算の上では「1日に満たない端数=初日を切り捨てる」といった考え方をしていることが分かります。
なお、142条には、期間の末日が休日に当たる場合の特則が置かれていますが、「その日に取引をしない慣習がある場合に限り」とあるので、適用ケースが限定的です。
基本ルール3 暦による期間計算 (第143条)
週、月又は年によって期間を定めたときの計算方法についての定めです。
基本ルール1と2を理解した上でないと、混乱しやすい条文です。
週、月又は年の初めから期間を起算するとき
民法第143条第1項では「週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。」とされており、同じく第2項において「週、月又は年の初めから期間を起算しないときは」とあるので、逆に、「週、月又は年の初めから期間を起算するとき」には第2項のルールが適用されないことが読み取れます。
つまり、たとえば、
・「1年間」の起算点が「1月1日の午前0時」である場合は、満了点はその年の終わり(=12月31日の24時)です。
・「1か月間」の起算点が、たとえば「5月1日の午前0時」である場合は、満了点はその月の終わり(=5月31日の24時)です。
※週の初めがいつなのかは諸説あるので、ここではあえて触れません。
週、月又は年の初めから期間を起算しないとき
これは意外と勘違いする人が多いので、条文をじっくり読んで当てはめてみましょう。
民法第143条第2項を再掲します。
週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
ここまで見てきた、起算日は初日不算入、期間の満了は期間末日の終了時点、というルールを思い出してください。
具体例でみてみましょう。
(初日不算入の前提で計算していますが、初日の午前0時から起算するケースでは1日ズレます。)
・「9月15日から1か月間」の場合 →起算日は初日不算入で「9月16日」、期間の末日は「起算日に応答する日の前日」で「10月15日」です。10月15日の24時で期間が満了します。
・「2023年6月20日から5年間」の場合 →起算日は初日不算入で「2023年6月21日」、期間の末日は「起算日に応答する日の前日」で「2028年6月20日」です。2028年6月20日の24時で期間が満了します。
ここまでは、「初日不算入」と「期間の終了は満了日の終了時点」ということを覚えていれば、そうそう間違えることはありません。
応当日がないケース
「5月31日から1か月間」「1月29日から1か月間」を考えてみましょう。
・「5月30日から1か月間」 →起算日「5月31日」、起算日の応当日「6月31日」??の前日???
・「1月29日から1か月間」 →起算日「1月30日」、起算日の応当日「2月31日」??の前日???
と、月により月の日数が異なるため、起算日の応当日が存在しない場合がままあり、起算日の応当日がないため、その前日も存在しません。
また、年の計算でもうるう年がからむと
・「2020年2月28日から1年間」 →起算日「2020年2月29日」、起算日の応当日「2021年2月29日」??の前日???
といったふうに、存在しない応当日をどうすればいいの?という問題が発生します。
そんなこともあろうかと?置かれているのが、民法第143条第2項ただし書です。
「応答する日がないときは、その月の末日で満了する」とされていますので、「5月30日から1か月間」の満了する日は「6月末日」、「1月29日から1か月間」の満了する日は「2月末日」、「2020年2月28日から1年間」の満了する日は「2021年2月末日」として処理することになります。
なお、「3月31日から1か月間」のように「月末の日から〇〇月間」となる期間の計算は、結局、起算日が「翌日(4月1日)=翌月の初日の午前0時から起算」となり、月初から期間を起算する場合のルールで計算することになります。